タイトル : もうひとりの写楽
作者 : イ・ヨンヒ
発行所 : 河出出版研究所
発行日 : 1998 年 06 月 24 日
版 : 初版発行
定価 : 1,800 円
ISBN : 4-309-90277-4
分類 : 720
☆☆☆☆
「東洲斎写楽は朝鮮国の絵師、『金弘道』であった !! 」
う〜ん、久しぶりの外人説でしょうか。
なおかつ、十返舎一九も朝鮮人とのハーフであり、東洲斎写楽の正体を知っていた。
なんて写楽説の本です。なんでもかんでも朝鮮半島起源にしちゃいたい意図が丸見えの「とんでも本」ですね。
十返舎一九の文章に「不思議の国のアリス」のルイス・キャロルもはだしで逃げ出しスッテンコロリンてな具合に多重の意味を持たせて、真実が書かれているということで、それらの文章の解析がおこなわれます。
そこまで、書きこむとあんなに作品を書けるもんかなぁ ... という凡才の疑問はさておいて。
朝鮮語はもちろん古代朝鮮語なんてわかるわけないから、謎解き部分を読んでもそれが正しいのやらこじつけなのか、まったく判断できませんです。
なんか昔最初に「ノストラダムスの大予言」を読んだときみたいだなぁ、レトリックにひっかっかっている気もしますが ... レトリックというより強引さが目立ちますが。
朝鮮語で例に出されている日本の地名で「越中」「越前」なんかに古代朝鮮語の意味 ( 音 ) をこうもあてはめられちゃうと、そのままズルズル信じてしまいそうだわね。:) だけど単体での音による言語の関連はすでに学術的に否定されているのを知らないのかな。
しかし「和歌集」などの歌でも古代朝鮮語の音を多重の意味として使用されていたなんて例えは推理小説みたいだけど、江戸時代の十返舎一九のあれもこれも ... っていうとなぁ ... ちょっと無理があります。そもそも古代朝鮮語などの半島言語の影響はあるだろうから、無理して探せば類似点って十返舎一九に限らず出てきそうな気もするし。う〜ん。例え朝鮮人とのハーフであったとしても、日本生まれ日本育ちの十返舎一九がなぞかけをおこなうほど朝鮮語をどこでマスターしたのかって疑問もあるなぁ。
それに「音」も現代の日本語にあてているけど、「江戸語・東京語・標準語」 ( 水原 明人 著 )にもあるように江戸時代の読み方だけでも下町発音、山手発音があるだろうし、「和歌集」みたいなのその時代の京言葉だったんじゃないかと思うのだけど、そこまで考察されている訳ではないんで、ちょっとこの本だけだと根拠として弱いかなぁ。根拠にすらなっていない程度ですけど。
一応、浮世絵類考に出てくる「斎藤十郎兵衛」との関係にも触れられていますし。
まぁ、東洲斎写楽に関して触れられている ( 定番の ) 以下の浮世絵類考の記述に関しても考察されていますからねぇ。
大田南畝「浮世絵類考」 1794 ( 寛政 6 ) 寛政 12 年加筆
「写楽、是また歌舞伎役者の似皃を写せしか、あまりに真をか丶んとてあらぬさまにかきなせしかは長く世に行われす一両年にて止ム。」
大田南畝元撰・加筆の「浮世絵類考」に 1818 ( 文化 15 文政元年 )から 1821 ( 文政 4 ) に式亭三馬が補記
「三馬按写楽号東周斎江戸八丁堀ニ住ス僅ニ半年余行ハル、ノミ」
斎藤月岑 1844 ( 天保 15 弘化元 )
「写楽 天明寛政年中の人 俗称斎藤十郎兵衛 居江戸八丁掘に住す 阿波候の能役者也 号東洲斎」
「掃墓資料・画家之部」 1908 ( 明治 41 )
「斎藤写楽・東洲・称藤十郎・文化三年五月十七日・年六十一・海禪寺」
本書の中では、東洲斎写楽の日本名を「斎藤十郎兵衛」ではなく「金弘道」から「斎藤藤十郎」を引き出しているんだけど、これで「掃墓資料・画家之部」とのつじつまがあってきますよね。これのために「金弘道」から「斎藤藤十郎」を導き出したのかな ?
他の東洲斎写楽論では、あまりこの文献には触れていないですもんね。
『東洲斎写楽はもういない』 ( 明石散人、佐々木幹雄 ) で、能役者の斎藤十郎兵衛の実在はほぼ確認されているわけだし、この人がなぜ浮世絵類考上で東洲斎写楽にならざるえなかったのかが、ちょっと希薄な気がしますねぇ。金弘道が琴平に滞在 ( 侵入 ? ) した程度ではなぁ。おしいなぁ。
筆使いなどは、本書でも書かれているように東洲斎写楽と金弘道で似ている部分もかなりありますが、本書の口絵で両者の作品を見ると、金弘道とは基本的に異なりますよね。「木を見て森を見ず」みたいな感じですね。似ていいる場所だけクローズアップして、あたかもそれがすべてのように語られています。木版画が素人だからかなぁ。
ちょっと疑問。まぁ、結論ありきの妄想レベルの推理本です。「とんでも本」としては面白ですよ。
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