Wanton Book Review 1999-04

役に立たないブックレビュー

最終更新日 : 1999 年 01 月 31 日

タイトル : 最後の海軍大将・井上成美
    作者 : 宮野 澄
  発行所 : 株式会社 文藝春秋
  発行日 : 昭和 58 年 01 月 25 日
      版 : 第 5 刷
    定価 : 1,300 円
    ISBN : 4-16-336950-3
    分類 : 280

☆☆☆☆☆

軍人というより教育者というか、本人は否定していますが政治家ですね。凄い人がいたもんだ。
どうも太平洋戦争に突入するときの映画とか本って、やはり陸軍側がよくも悪くも主人公になっちゃているもんが多いでしょ ?
当時の陸軍と海軍の考え方の違いってのもよくわかる本です。その海軍そのものがこの主人公なんですね。愚直というくらい四角四面の性格だし。たしかに「面白味のない人物」って評もあながち嘘ではないんでしょうね。
ラジカルなリベラリストとの事で。戦争に対する考え方、戦争に突入しなければならなくなった時の苦悩など ... 凄い精神力です。

戦後にこの人の言葉でおもしろいのが、「陸軍は陸軍のことしか考えなかった、陸軍一番で国は二番だった。現在の自民党は自民党が第一で国家は二番か三番でしかない。」ってさ。わかりやすい例えですね。(^^)

この手の戦争前夜を書いたノンフィクションを読むといつも思うのが、昭和天皇って人間として凄いねって事ですね。 5.15 にしろ 2.26 にしろ開戦時にしろその途中にしろ終戦時にしろ、的確に状況を把握して判断しているよね。批判としては、戦争突入を止められなかったとか、天皇の名において犯罪を犯したって事なんだけど、もしこの人が強権を発動するような人なら戦争に突入はしなかったでしょうね。自分の判断とは違っても部下を信頼して最終的には部下の判断に任せているでしょ、どの場面においてでも。それが弱さでもあるんだろうけど、部下を信用してまかせるだけの度量があった訳だよね。
凄い人物だわ。

しかし、陸軍の暴走が始まると僕なんかでも名前だけは知っている、日本船舶協会から日本財団になった故笹川某氏とかピーナッツはいかがでしょうの故児玉某氏とか暗躍したとして名前が出てくるんだね。故赤尾某氏は出てこないね。このころ監獄内かな ? この辺に絡んでいた人達がまだ政治家してたりするんだけど ... さすがに混沌とするわね。こりゃ。

「戦争論」なんてボケ・マンガが出版されていますが、あれの内容を信用しているボケにはこの本をお勧めしますです。

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タイトル : 広重「東海道五十三次」の秘密
    作者 : 對中 如雲
  発行所 : 祥伝社
  発行日 : 平成 7 年 11 月 10 日
      版 : 初版第 1 刷
    定価 : 971 円 ( 1,000 円 )
    ISBN : 4-396-10372-7
    分類 : 720

☆☆☆☆

有名な歌川広重の保栄堂版「東海道五十三次」は、司馬江漢の画帖を手本にしたものだった !! と、いう論です。
作者のところに持ち込まれた画帖には、広重の「東海道五十三次」 ( 保永堂版 ) と同じ絵が書かれていて、調べていくとどうも司馬江漢の作品ののようである。

なんて事なんですけど、作者曰く「研究者はこの大発見に目をつぶっている」ということなのだそうで、一般人相手に本を書いたって事みたいですね。NON ブックスだし。このシリーズは結構こういう本流から無視されてっていう当たりがあったりしますよね。数年後には認められて ... なんていう。
広重の作品とそれに対応する司馬江漢の作品がカラーで並べられていて、見ているだけでも面白い仕上がりになっています。

内容は実際に読んで判断してもらうとして ... ちょっと気になった点を書いておきます。

画帖の作品は、洋画風でそれなりの作品なんですけど、主題がはっきりしない絵なんですよね。どうみても。他の司馬江漢の作品からすると、ちょっと格が落ちるような気がするなぁ。
司馬江漢と歌川広重の絵の差として、遠近法の使用に関する部分をあげているんですけど、やはり他の司馬江漢の作品からすると、わざとらしく、それらしく書かれているような気がするなぁ。確かに江戸時代に遠近法を解釈して書いていた人は少ないんだろうけど ... どうもなぁ。よく見ると一つの作品に中心が 2 つ以上ないかぁ ?
「火消同心だから東海道を旅する事ができなかった ... 」という記述があるんだけど、定火消同心って町火消しじゃないんだし、単に火事のための仕事じゃないんじゃない ? 火事などのパニック時の混乱を収めるのがメインの仕事で今で言えば、機動隊だろうし公安って位置づけでしょ ? そういった意味合いであれば、東海道を旅して京などの警備の視察なんて理由で旅できたんじゃないかな ? どうもこの記述が旅に関しては安直な結論を出しているような気がするな。
ヨーロッパに浮世絵が出ていった経路として、陶磁器なんかの包み紙としてって話がここでも書かれていて、一般にも言われているけど、実際に包んだ用紙と使用した跡のある浮世絵って見た事ありますか ? 誰の本か忘れましたが、実際にヨーロッパ行って調べても包んだ形跡のある浮世絵は結局見つける事ができなかったって話しがあります。この辺に関してこの作者は無視しているのかな ?
「ヨーロッパでの浮世絵の評価ってのは、たとえ葛飾北斎だとしても版画として多色刷りなど技術的評価が半分で絵画としては、司馬江漢の方が上であった。」なんて記述もありますが、それだけならゴッホは歌川広重を模写しないでしょうね。絵としての評価もゴッホなど一連の画家の評価を見ると、一概に司馬江漢の方は上であったなんて安直な結論は出ないよね。

という事で、広重の「東海道五十三次」 ( 保永堂版 ) が元絵の存在するものであるってのは、なんとなく理解できるし、その方が、それ以降の「東海道五十三次」の評価の低さや「木曽路六十九次」の英泉とのバラバラな作品構成ってのも理解しやすくなりますね。ただし、司馬江漢を持ち上げすぎる感があって、いまいち胡散臭くなっちゃてるぞ。

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